ガープスサイバーパンク ガーディアン・オブ・アグノシア

《ラボ/アクロス&ニコ》

ラボの上に用意されたサイボーグの残骸。山積みにされる様はまるで工場の廃材と見分けがつかない。
ニコは自分が工場で働き、サイボーグが見慣れない街で生まれ育ったせいで、なんとなく違和感を感じているようだ。
ニコ「ここまで全身サイボーグだと…死体って感じしないなぁ」


作業をしているアクロス。乱暴に機械をバラして必要な物を漁る。人間と思っていたらこんなにぞんざいにはできないだろう。それとも彼女はこういう人なのか

…。

残酷と表現する行為ではないが、冷たい印象を受ける。


探しているのはコーダー:記録装置だ。記録装置は特殊部隊や警官が備えているものだが、最近は頻繁に出回っている。監視装置や部下の管理にもなるからである。
こういう特殊な状況の報告を円滑にするためには使われる。
アクロス「コーダーのデータが破損してる…どれもこれも…。ウイルス持ちばかり、私の手におえないわ。」

ニコ「不良品ですか?」

アクロス「だといいわね。その場でこれ等のサイボーグ全員にやったんだったら恐ろしい奴だから。」

ニコ「シュウさんにはデータ無かったんですか?」

アクロス「無かったわ。シュウは彼を見えなかったの。もしかしたら戦闘中も認識できなかったんじゃないかしら」


ニコは空恐ろしさを感じた。恐ろしく強いシュウでさえ、そんな男に勝てるかどうか…。

アクロス「電脳関係に特化した知り合いがいるわ。そっちに相談しましょう」

ニコ「アクロスは電脳関係じゃないんすか?」

アクロス「私は技師よ」



今は使われなくなった貨物搬入用の大空洞があった。
都市建設期に使われていた遺物は今は劣化が進み、足元のレールは腐り果て、錆び付き、ケーブルにも電力は通っていなかった。
カビ臭いジメジメした空間は生活環境劣悪、悪党も寄り付かないという場所である。

アクロスとニコが訪れたのはそんな場所である。
アクロスはバイクにまたがり、背後のシートに座るニコ。

アクロス「私の体に触ったら殺すわ」



ニコ「え…難しくねぇ?」→返事を待たずに走り出すアクロス。舌を噛むニコ。


ところどころ足場の倒壊した坑道内部を疾走するバイク。不自然な姿勢でしがみつくニコ。
ニコ「どんな人ですか?今から会いに行く人は―」

アクロス「彼の名前はペッツ。ハッカーをやっているわ。職業というより生活のためね。基本的には依頼は受けないたち。
私が学生の頃の教え子で、顧客よ。体を設計してあげたり、脳を増量してやったわ。」

ニコ「…脳?」



ライトが大空洞の奥を照らす。突然現れた鉄扉の前でバイクは停車。アクロスは声を張り上げる。
アクロス「ペッツ空けなさい!」

……

……

…返事はない。


アクロス「居留守使っても無駄よ。あなたが何処かに行けないことは私が一番わかってるんだから。」

……

……

…返事はない。


ニコ「嫌われているんすか?」

アクロス「こうゆう奴よ。」


アクロスはポケットから包みを出す。何か食べ物の甘い匂いがする。
適当でぞんざいな扱いに包みはくしゃくしゃ、中身も怪しい。
アクロス「あなたの大好きなコレを持ってきたわ」


……

……

…返事はない。


アクロス「捨てるわよ」

―とたんに慌てるように重い鉄扉が鈍い音を立てて開きはじめる。
ニコ「なんすかソレ?」

アクロス「好物よ」




内部は整理が行き届き整然としていた。まるで表の様子と中の様子では雰囲気が違う。
何より違うのは中には電力が通り照明がついているのだ。
明滅するか細い灯りが2人を誘っていた。


「ケケケ…ボクに何の用?」

少年の声が響く。
その空間にいたのは一人の少年だった。
少年は“奇妙な形”をしていた。手も足もなく、胸像のように置かれたその体にはいくつものコードが繋がれている。
金属製の骨格に覆われた姿はさながらアイアンメイデンに囚われているようにすら見える。
そして、本来愛らしいと思えるその瞳は濁り澱んで精細を欠いている。
ニコ「アクロスが設計したの?」

アクロス「ええ」

ニコ「ボソッ(ひどっ)」


アクロス「ペッツ。あなたにこのコーダーを見てもらいたいの。データはウイルス持ちで消されたり改竄されたりしているけど、あなたなら分かるでしょう。」

ペッツは上目遣いに笑みを浮かべアクロスの手元を凝視している。
ペッツ「…それなぁ〜に」

機械の駆動音が響き暗闇から何かが近づいてくる。生活支援用のアンドロイドである。
アクロスの側にアンドロイドは立つと手を差し出した。
アクロス「ほら好きでしょう?」


アンドロイドの手を介してペッツはそれを受けとる。包みを開けると中にはべちゃべちゃに崩れたパイのようなものがある。
ペッツ「!―アップルパイだぁ」


瞳を輝かせ、犬のようにパイを貪るペッツ。顔中を汚しながら一心不乱に食べる。
ニコは思わず目を背ける。



★★★★★★



アクロス「ありがとうね。ペッツ」


坑道を抜け都市に向かうバイク。アクロスとニコの姿。
暗闇を抜けながら、アクロスも自然と無口となる。ペッツからは必要な情報は獲得した。

ペッツの調べでコーダーが改竄されていたことがわかった。ハッキングが行われていたのだ。
その処理速度は現代の技術では勝負できないほどの速度であり、現時点での対抗策は無いと言う。
あらゆる電子器機は彼の前では意味をなさない。
シュウのような最新鋭サイボーグですらそれを防ぐことはできなかったのだ。

『現時点では、バッカーナは自分たちの手に負えないのではないだろうか』







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