ガープスサイバーパンク ガーディアン・オブ・アグノシア

《隠れ家:シュプル》

廃材を積み上げたドア。
ともすれば見逃してしまいかねない僅かなスペースがそこにはあった。
大人では潜ることのできないその小さな隙間の奥に、ストリートキッズの隠れ家があった。

最後のキッズがこの隠れ家に戻ってきたことを確認したストリートキッズのリーダー・シュプルはようやく安堵のため息をこぼす。
子供達の安堵のため息と共に、再びのし掛かる不安。
自分達に好意的に接してくれたバッカーナと組んだことは、一つの賭けであった。

バッカーナがのしあがらなければ、自分達は情報屋としての信頼を失い。ストリートでは生きていけなくなる。
既に自分達は身動きが取れないところまで追い詰められているのだ。
シュプルは皆にかける言葉を探したが見つからなかった。
「きっとバッカーナが支援してくれる。それまでは姿を隠すんだ」

そんな都合のいい考えが脳裏によぎるたびに、振り払う。

「大人は助けてくれない」



ここで生きるストリートキッズの鉄則である。

シュプルは言葉のかわりに、わずかばかりの保存食と、安酒を仲間に振る舞った。
「腹が満たされれば人心地つく」経験がそう言っていた。


「…お兄ちゃん」

暗がりに灯された明かりの下。備えられたベッドで横になる幼い少年の姿。
「…お兄ちゃん」

と再びシュプルに声をかける。シュプルは弟である彼の傍に歩みより、安堵させる為に頭を撫でた。
弟は手足に障害があったが、それゆえにこちらの感情には敏感だった。

この世をみたそうとするようなサイバー技術だが、その恩恵を預かれないものがいる。
今日日臓器を売っても安価サイバー手術にあずかれるご時世に、彼のような稀な例があるのは理由があった。
シュプルの弟はサイバー手術不適応であり、体はサイバー機器を受け付けなかった。
強い拒絶反応を示し、たちまち接続部位がただれて膿を作る。

シュプルはこの弟を見捨てることができない。
唯一の肉親であり、それがシュプルの生きる明確な理由だった。

―首筋のチップスロットから膿が流れていた。
「また義肢が荒れてきたな。変えないとな…」




「なぁシュプル。不味くないか?」

不意に背後からかけられる言葉。いや気配はあった。


(やはり…)
仲間の疑問や不安は言葉になって溢れだした。
「仕事も取れない…買い出しにも行けない…。干上がっちまう」

「いや…だいたい直ぐにもここが見つかるかもしれない。ぶっ殺されるぞ」


「落ち着けよ」

シュプルは振り返り眼光を光らせる。不敵とも言える面構えである。
「いいものを見せてやる」

シュプルは普段は使うことの無い倉庫の一角を指差す。




シュプルが案内したのは、隠れ家の最も奥の鉄扉であった。
隠れ家自体、ストリートキッズ達はあまり使わなかったので気にかけてはいなかったが、シュプルはいつも『もしも/こんな時』には備えている。
彼だけは頻繁に出入りしていることを皆は知っていた。

シャッターを開けるための武骨なスイッチを押す。軋む音を立てて開かれていく鉄扉。
作業用重機が何台も入るようなスペース。
暗がりに光が差し込んでいく。
中にある機体のシルエットが浮かぶ。
シルエットは巨大な戦車のような砲台のような形状をしていた。
キャタピラーの代わりにあるのは6本の脚。
まるで蜘蛛のような形状をしていた。

“多脚砲台”

大戦時の遺物であるそれは、個人が保有する火力としては馬鹿デカ過ぎる代物である。

マシンガンは6門。
思考感知式で意識しただけで射撃が出来、射撃技術の低さは技能模擬チップで補っている。
砲台は現存しうるサイボーグのどれも破壊する。サイボーグに使うのは勿体無い火力である。これは建造物を破壊する武器なのだ。

子供達は見たことの無い“新兵器”をオモチャを与えられた子供のようにはしゃいで歓声を上げた。
シュプルだけが、その光景に表情を変えなかった。

「使わなければいいんだがな…」







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