ガープスサイバーパンク ガーディアン・オブ・アグノシア

《シュウ・タイホウ@》

ある早朝のことである。
その男はいつものように洗面台に向かい、寝惚けた頭を冷えた水ではっきりさせようと蛇口に手をかける。
傍らの髭反りを掴みガラスに向き直ると、そこにはカブトのようなマスクが映っていた。






シュウは拳をガラスに叩き付けた。







シュウタイホウは戦前は中華ヤクザの武侠であった。抗争で妻子は死に、組も滅んだ。
良き父・良き夫でありたいと願い、侠客として誇りある生き方、義侠心を振るう古いヤクザでありたいと願った。
今は過去の話。シュウは死に、組も義侠心も、妻も子も無く、残るものは何一つ無かった。 そう、復讐心も後悔も無い。
ただ今を生きるシュウには体すら失った苛立ちだけが残った。
何も残らなかったという事実だけが残った。
死んで新型サイボーグの被験体になったシュウは、時折過去の錯覚に捕らわれる。人であるという錯覚に―

ガラスが散らばる中、その物音を聞き付けて一人の影が現れる。
アクロスである。
シュウが気が付くと、口をついたのは弁解の言葉だった。

シュウ「あ、いや、スマン。ガラスに蝿が…」


アクロスは苦笑する。怒ってはいないよ、というアピール。

シュウ「ガラスはすぐに直すから―」


アクロス「いいわよ」


物音を聞き付けてニコが現れる。ニコは箒とチリトリを手にアピール。

アクロス「メンテナンスするから、シュウは先に行っていて」


シュウ「あぁ。わかった。」


ニコとアクロスは散らばったガラスを片付ける。
ニコはチリトリを持つアクロスに目を向ける。
ニコ「…シュウさんて、もしかして結構最近にサイボーグになったんですか?」

アクロスは目を伏せたまま。その返事は返さない。






「正義を語り義侠心を振りかざす…
そんなアイツが死んでサイボーグになったりしなかったら、あなたが仲間になることも
…少しは認めて上げられたでしょうね」





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