ガープスサイバーパンク ガーディアン・オブ・アグノシア
《バルシュタイン》
アグノシアの高層ビル街/摩天楼。そのビルの一つ。上階の一室に男の部屋があった。
極上の絨毯。高価な調度品、ガラス張りの壁を見下ろす男の姿。
高価なヴィンテージ物のワインを片手に視線を暗い街並みへと向ける。
癖のある髪。貴族のようなシルクのシャツを着こんだ男は生来の皮肉屋らしい額のシワを顔に浮かべていた。
彼の名前はバルシュタイン。
かつては貧民としてスラム街に住まい、ゴミ箱を漁るような日々を送ってきた彼が、今はこの場にあるのは理由がある。
バルシュタインには生来特殊な力が備わっていた。それは学問であり・血であり・奇跡であった。
古くは魔法と呼ばれ、後には超能力など色々な呼称を持った。
彼の脆弱な素質はアグノシアの研究者と出会うことで開花した。
しかし、彼がこの場にある理由は他にある。
彼は実験体として自らの弟を差し出し、今の地位を獲得したのだ。
才能溢れる弟は研究者を多いに喜ばし、代わりにバルシュタインは財を得た。
バルシュタイン「…高価な椅子だ」
と椅子を撫でる―
バルシュタイン「…ワインもいい」
口に含んだワインを味わう―そしてそれを唐突にガラスに叩きつける。
グラスが砕け、ワインが赤く景色を濡らす。
《ニコ・ロドリゲスA/バルシュタインA》
使い古したコートを羽織り身支度を整えるニコ。
ニコの気持ちは決まっていた。妹を探す。生きている望みに賭けて、また夜の町に身を投げるだろう。
足を組み、不機嫌にそれを見送る女アクロスは、それを知っているが為に静止の言葉も無いことを知っている。
ニコの身支度に手をかしつつも静止の言葉をかけるサイボーグ:シュウタイホウは、それを知っているが為に今止めるのは自分の言葉しかないとわかっていた。
たとえ止められないことだとしても。
シュウ「ニコ。妹のことを諦めろとは言わない。しかしもっと別のやり方があるんじゃないか?
勿論私達も協力する。」
ニコ「警察には届けらんないし、俺はやっぱり一人でいたら探してると思うんです。」
シュウがニコの肩を掴む。「なら一緒に探さないか?」
アクロスが眉をしかめる。シュウは言葉を続ける。
「私達は今都市で起こる犯罪の解決に為に設立された組織だ。
たくさんの事件に首を突っ込むことにはなるが、情報も入るはずだ。」
振り替えるニコ。戸惑いは無い。多分そんな話を切り出してほしかったのだ。
ニコ「はい!やらせてもらいます!」
バルシュタインがやってきたのはこの奇妙な光景の中であった。
自分達秘密組織の中に、どういうわけだか一般人が紛れ込んでいる。
バルシュタインはこの組織のリーダーであり、管理者であった。この組織が作られたのは理由がある。
アグノシア上層で作られた先端テクノロジーが、上層の分裂により流出していた。
それが抑止不能な犯罪になり、さらにテクノロジー流出が起きることを恐れたアグノシア上層部は、極秘に火消しの為の組織の設立を決め、その管理をバルシュタインに任せたのだ。
アクロスから愚痴混じりの説明を受けるバルシュタイン。思わず口をつくのは当然の言葉。
バルシュタイン「君達も物好きだね―」
ニコはバルシュタインの登場に説明を求める。
シュウ「彼はバルシュタイン。私たちの仲間だ」
バルシュタインは苦笑する。自分はチームのリーダーなのだが…いやしかし、別段そんな身分を気にする自分でもない。
シュウ「どうした?バルシュタイン」
バルシュタイン「いや、その説明でいいよ。」
ニコの説明。「俺!なんでもやります!」
しかしバルシュタインはそんなニコを見ても怪訝、自分は構わないという考えはあるものの、
気が向かないのも事実。
バルシュタイン「お勧めしないよ?」
アクロスが言葉を添える。
「ニコ。あんたもおかしいわよ?
バラされて死ぬ思いをしたのに、また首を突っ込むの?
そう何度も都合よく助かるわけじゃない。」
ニコ「……」
ニコは言い返せない。そりゃ迷惑にもなるだろう。自分は一般人、次こんな目にあったら助からないかもしれない。
シュウ「前とは違うさ。今は私たちが共にいる。」
アクロスはかぶりを振り、バルシュタインは肩をすくめる。
アクロス「忠告したわよ?」
バルシュタイン「君達がそれでいいなら―
私には異論は無い。」
シュウ「良かったな」
ニコ「はい!」
―と小気味いい返事。
バルシュタイン「本当に良かった、のかな?」
―とバルシュタインは考える。
その後アクロスとシュウは口論した。
「あんたは実りもしない希望を振り撒いているだけよ!」
「何かしないと人は前に出られない。ニコにはこれが必要なのだ」
「あんたはただ無責任なだけよ!」
アクロスの平手がシュウの顔を打つ。
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