ガープスサイバーパンク ガーディアン・オブ・アグノシア

《ニコ・ロドリゲス》

工場油にまみれた手を拭い家路に急ぐ。今日は少し遅くなった。待ちきれなくて妹が飛び出してしまわないかと心配だ。
ニコはスラムで生活する移民。夢の無い土地を捨て、全財産をかけてこのアグノシアにやってきてまだ数ヶ月。
今はまだ生活は厳しいが、そのウチデカイ山を当ててやる。
今はまだ戸籍すら買えないけどな。

ニコ「戸籍も無い。まだ不法滞在者かよ」


家に帰る。しかし灯りは暗いままだ。

ニコ「電気を付けよう」


妹の姿はそこには無かった。外から侵入した形跡は無い。アレほど表は危険だから出ちゃ駄目だと言ってあるのに。

ニコ「冗談じゃ無い!?荷物を投げ捨てて表に出ます。」


折しも外には雨が降りしきる。その中を駆け回り妹の名前を叫ぶニコ。
裏路地は犯罪の宝庫だった。強盗・殺人・麻薬の売買…どこかで銃撃戦の音が響いている。
こんな中じゃ妹なんて5分も生きてなんかいられない。

ニコ「マジかよ!?
とにかく探します。いつもの帰り道とか、別の道とか―」


その日から、ニコの妹を探す生活が始まった。

ニコ「ところで妹の名前って?―」



裏路地を探し回るニコ。もはや仕事も手につかない。
せっかく手に入れた工場の仕事も無げだし、今もまさに命の危険がある裏路地にその身を投げ出している。
入ってくる情報は、不安を駆り立てるものばかり。
「この辺りに移民の人拐いがいるらしい」

「奴等は臓器屋らしいって噂だ。」

「不法滞在者は戸籍が無いし拐っても何の騒ぎにもならないんだよ。いない人間だからな。」


ニコ「!!?そんな…臓器屋に捕まってたら、もう死んでるようなもんじゃないか。」


そうしてニコは今日も裏路地を這い回る。


そんなある日のことである。

ニコ「何か手がかりが?」


不意に目があった強盗達。きっかけは唐突である。わけも分からぬまま、理不尽な暴力にさらされる。
彼らは一般的なサイボーグであったが、マシンガンなどレトロなわりに威力がある武器を持参していた。
それがところ構わずぶっぱなされる。





ニコ・行動力8
サイボーグ・12が3体


ニコ「畜生。こんなことしてる暇ないのに、奴等は臓器屋とかじゃないのか?」


相手が何者なのか。それはわからない。3人が続けざまに銃撃をばら蒔く。旧大戦で大流行の大量に弾丸を降らせる奴だ。

ニコ「コロコロ…よし4グループ・12発みんな避けた!」

GM「でもグループ射撃は最低でも1発当たるんだよね。ダメージは17点の叩き。」


ニコ「ぐは!駄目だ。これだけで体ガタガタ。生命判定は成功して気絶しないけど、もう避けられない。意識も朦朧した!」

GM「さらにサイボーグが迫る。体力判定勝負で引きちぎりを選択だ。」


ニコ「俺!生人間ですよ!?出来るはずがない。」


跳弾を浴び、よろめくニコを組伏せるサイボーグ。その腕が容赦無くニコの右手をへし折り、引きちぎる。
倒れるニコ。血しぶきの中で文字通りバラされるニコ。

ニコ「そんなぁ!くっそー!」




そのサイボーグの群れに静止の声がかかる。振り替えるサイボーグ達。
見上げたその頭上には、洗練された白い全身サイボーグの姿があった。
サイボーグは背後で光るビルのライトの光を受け、携えた刀を引き抜く。
その光景に思わず吹き出す強盗達。互いに顔を会わせては笑みを溢し、向き直るなりマシンガンが火を吹く。
激しい金属音が響く。
信じがたい動き。
弾丸は回る刀に次々と叩き落とされ、弾き返される。
3人の武装サイボーグの弾丸を全て弾き落とし、白いサイボーグの跳躍。
そしてすれ違い様の一閃。強盗一人が携えた銃器ごと切断される。刃は舞踊り強盗達を切り捨てていく。
驚愕と苦悶の表情で3人の強盗は崩れ落ちる。

ニコ「あ、あんた…?」




―そしてニコは暗い闇の中に飲み込まれ意識を失う。








あれからどのくらいたったのだろう。ふと意識覚醒する。まず瞳に入るのは白い天井。
病院かラボのような殺風景だが清潔な天井が目につく。続いて空調の音が響く。
自分が寝ているのはベッドの上だがシーツも毛布のかけられておらず、横にされている。


横を向くと視界に女の姿。美しく端正に整った顔立ちに切れ長の瞳。
その美しい要望を気にするでもなく長い髪を無造作に後ろで束ねている。
服装は白衣、ドクターだろうか?

ニコ「ここは?あ、俺どうなったんすか?」


女はその声を聞いてそちらに視線を移す。嫌な視線。まるで厄介者でも見るかのような視線である。
手足の感覚が違う。まるで少しかじかんでいるような感覚。ふと見るとその手足は金属とラバーの素材。作り物の手。

ニコ「あ、手が無い。いやあるんだけど…」


手の感触を確かめるニコ。拭いようの無い違和感/この後生涯付きまとうだろう違和感。

ニコ「俺いきなりサイボーグに改造されてその改造費として、生涯借金を背負うんですか?」


女は溜め息・かぶりを振る(苦笑)。「―だったらどんなにいいか。完全なボランティアよ?」

さも不本意、さも不愉快というような女の対応。自分は望まれぬ客なのだろうか。

ニコ「あの…スンマセン。よく事情がわからないんスけど?。あ、起きていいですか。」


「気が付いたか」

起き上がるニコに声がかけられる。ローブを羽織った白いサイボーグの姿。
手には盆。上には湯気を立てるお茶。
それを丁寧にニコに差し出す。

ニコ「さっきのサイボーグっすね?。ありがとうございます(―と頭を下げる)」


お茶を女にも差し出す。白いサイボーグは向かいの椅子に腰掛けると、こちらの顔色などを確認する。
察した女が横から声をかける。
「腕一本と両足を変えたわ。風穴の空いた体は弾丸が貫通してたからメディカルキットで塞いだわ。
じゃなきゃ今頃あの世行きよ。」

頷く白いサイボーグ。
「まずは自己紹介だ。私はシュウ・タイホウ。私が偶然通りかからなければ、君は危ないところだった」

女がくすりと笑う。
「コイツは深夜見回りとか言って夜な夜な街を歩き回っているのよ。正義のヒーロー気取りで。
あんたが不用心に丸腰で深夜街を徘徊しているなら、高い確率で顔を会わせたかもね?」


シュウは女に向き直り、言葉を続ける。
「彼女はアクロス=ベネディクト。もぐりのサイバネ技士だ。残念ながら医者じゃない。
医者だったら君も手足を失わなかったかもしれんが…」

その女・アクロスは一気に不機嫌になる。
「聞かれても無いのに自己紹介する!頼んでもないのに人の紹介をする。あんたって本当にウザイ奴ね」

顔をぷいと横に向ける。

ニコ「…(-_-;)」


シュウは顔を付き出して小声で話しかける。
「気にするな彼女は少し、ひねくれものだ。」


ニコ「えぇ、わかってきました(苦笑)」


お茶を飲みながら、互いの話をする。

ニコ「助けてくれてどうも。」

シュウ「しかし、深夜出歩いていたのは感心できないな。
見たところ君は犯罪にも無縁だ。出歩くのは何か理由があると察するが?」


ニコ「はい、実は―」


ニコは途中何度かお茶で唇を湿らせつつも、今までの経緯を説明する。
自分が妹の特徴、調べて来たこと、そして今までの生い立ちまで、気が付くと随分話し込んでいた。
その間シュウは黙って話を聞き、そしてアクロスもその言葉に黙って耳を傾けた。
ひとしきり話続けたニコはこの言葉で締めくくる。

ニコ「えと、妹のこと、臓器売買組織のこと、何か知りませんか?」


シュウは顔を上げて返事を返す。組んだ腕を解く。
「臓器売買組織の噂は耳にしている。噂の域だが…。
しかし、色々知人のツテを頼ればもっと詳細な情報も入ってくるだろう。」


アクロス「妹さんが綺麗だっていうのなら、臓器屋〜調度品に流れたり、好事家が買い取ったりするわ。
未熟な体だと脊椎は使い物にならないこともあるから、廃材として部品がジャンクヤードに流れてるかも。
じゃなきゃ―」

「おい!」
とシュウはその言葉を遮る。
アクロスは無言。言いたいことはある。でも口論する気は無いらしい。


ニコ「あ、それと体のことも。お金なんですが…」

「気にしなくていい。あれは公費で落ちるだろう。必要経費にしても構わ…」

と隣のアクロスに訪ねるシュウに、「ちょっと何、情報漏洩してるのよ!」
とアクロスが突っ込む。

ニコ「警察の方?」


しどろもどろのシュウ。
「いや…」
と思わずお茶に手を伸ばす。お茶はシュウのマスクに当たり、溢れては座る膝元を濡らす。
「あっちい!?」

慌て掌から茶碗を落とし、床を汚す。

「何やってんのよ!このバカ!拭け!拭きなさいよ」
「何を、そんなに、怒ってるんだ?」

「ここは私の聖域なのよ」
と、お茶を投げつけるアクロス。
どうやら、さっきの「待て」
の一件は思いの傷が深いらしい。
「汚すなよぉ。えと…雑巾どこかな?」

アクロスの機嫌は直らない。

ニコ「―この人と付き合うの大変ですよね?」

シュウ「バカ!お前!このタイミングでそんなこと言ったら!?」


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