ガープスサイバーパンク ガーディアン・オブ・アグノシア

《警察署:スズ》

警察署の内部には犯罪情報が溢れかえっていた。
それらを繋ぎあわせれば、この街のスラムの犯罪者の勢力図を割り出すことだって出来るだろう。
しかし、警官が彼等から賄賂を受け取り、彼等と共謀しては犯罪の恩恵にどっぷりと浸かる有り様では、そんな当然の機能すら期待できない。
よしんば犯罪者が捕まったとしても、それは芋づる式に警官が捕まることを意味している。
かくして―警官の仕事は犯罪の隠蔽と揉み消しになりつつあった。

そんな中に彼女のとった行動は暴挙と言えた。



「何をしてるのかね!?
君達は!!!」



警察署長はいつになく真剣な面持ちであった。
でっぷりと太った体を椅子に沈ませ、ペロペロキャンディーを握りしめながら、
禿げ上がった頭の中年署長は怒鳴り声を上げた。


対する婦人警官クリスは眉を動かすこと無く無表情で敬礼。
「本官は忠実に職務を実行しているだけであります」

こちらも話をする気は無い。


その相棒であるスズは、うんざりした表情で弁解の言葉を探す。
スズ「俺は何もしていません。彼女が独断でやったんです。」

―とコイツが悪いと指差し続ける。



署長は顔をつきだし臭い息を投げ掛ける。
「いい相棒を持ったなクリス。たまには言うことを聞いたらどうだ?」


クリスは無言。


署長は本気だった。
「私はな。本当に迷惑しとるんだ。
退職金だって大したこと無いこの職務で、老後の事を考えるならば預金が必要だ。
私の顧客の方々がお前の暴走で迷惑してるんだ…
お前のように明日も未来もいらないというような考え無しの無鉄砲とは違うんだよ。」


クリスは表情を変えない。
苛立つ署長。
不意にクリスの顔に平手を打つ。2度3度と続け様に顔が打たれる。


クリスは相変わらずに無表情に徹する。



「休暇をとりたまえ。たまには息抜きが必要だろ?」

そう署長言うなり二人を退席させた。



クリスは苦笑いしながら悪態をついていたが、無理をしているのは分かっていた。
警察署の皆もクリスをよく思わない。誰も味方なんていないのだ。
クリス「どうすれば、あんなので警察署長が勤まるのかしらね。太りすぎて動けないんじゃない?」

スズ「…なぁ」



クリスは車に乗り込む。
そしてスズを待つ。
―だが中々乗り込まないスズ。助手席のドアを開けて顔を覗かせる。
クリス「ほら乗りなさいよ?運転したくなったの?」

スズは無言。
クリスにも嫌な予感。


クリス「ねぇ?」

スズ「……いや、俺は乗らない」



クリスの顔色が青ざめる。署長に打たれた時よりはるかに悪い。
クリス「ちょっと!?」


スズは車に背を向けると歩き出した。クリスはいよいよ狼狽すると運転席から飛び出しスズの後を追いかける。
クリス「待ってよ!パートナーでしょ!?」



スズは足を止めて苦笑。
恨めしそうに振り返りクリスを見る。
スズ「お前言うこと聞かねぇじゃん?
常識を考えろよ。無理なんだよ。なんでわかんねぇのかな…」


クリスは焦っていた。
スズの言うことはわかる…説得しないと引き留めないと…。
でも説得できる言葉が見つからない。
クリス「でも…」

―そこで止まる。
―続かない。


スズ「俺は降りるわ。」

スズははっきりと言う最後通告のようだった。


「だからお前もやめろ」

―口には出さないが、二人の間には言葉が交わされた。


クリスには一人ではできないと分かっていた。



クリス「…私は…やめないから。」




スズとクリス。
険悪な雰囲気、悲愴な雰囲気。
(コンビは解消かな)


スズは背を向け歩き出した。クリスは呼び戻そうとでも言うのか声を張り上げた。

「私はやめないから!」





スズの耳に嫌な耳鳴り。
クリスがそのまま車に乗り込む。
(…聞き分け…ねぇ)
スズは唇を噛んでいた。やっと開いた口も歯を噛み締める。
そして―


突然の爆発音!!!

スズの背後で何か光り、衝撃に地響きすら感じる。
炎の熱が背をなめる。

振り替えるスズ。
炎上するパトカー。
爆破された残骸だけが残されていた。
転がるタイヤ。


スズは呆然とそれを眺める。分かっていた結末。当然の結末だった。
スズ「あ〜あ…言わんこっちゃない。」

生来の皮肉屋である彼から出たのは力無い軽口。
絞り出したというのが相応しいか?


不愉快さと苛立ちが、心を焦がしているのか、スズは炎を睨む。


即死だっただろう―


ただ残骸を睨む

















スズ「署長♪クリスが死にました」

署長室に入るなりスズは努めて笑顔で話す。
ニヤニヤとしたニヤケづらのスズであったが、苛立ちが空気に垂れ流される。

署長は無関心だった。
「だから何だ?
退職金なら出ないぞ?」




スズの表情が消える、いや苛立ちを吐き出す乱暴なものになると、躊躇い無く手 は拳銃を掴む。

ドン!ドン!



続けざまの発砲音。
弾丸は署長の心臓と脳天に叩き込まれる。
溢れ出す血が椅子をぬらす。


スズはポケットから警察手帳を取り出すと、それを署長の机の上に放り出す。

スズ「……」

そして無言の余韻。




……

………


それから暫くした後である。一件を聞いて現地に向かったシュウとニコは、必然的にスズと再開を果たす。
シュウ「スズ…」


スズは手を上げるなり陽気に答えた。

「今、退職届けを出してきた♪無職になったから雇ってくれ。」







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