ガープスサイバーパンク ガーディアン・オブ・アグノシア

《庭園:シュウ・ニコ・コシロー・ペッツ》

こんな汚れた町並みの中にも憩いの場がある。いや正確には憩いの場の亡骸か。
そこは公園であった。中央には池があり、周囲には道が整備されている。
桜が植えられたこの公園はかつてはさぞ美しかったであろう。


かつてこの街が作られた当時は町並みは綺麗であったその場所は、人々の安らぎとなるべく場所であった。
この都市に早期進出した日本人実業家がここに桜を植えてもう随分と経つ。

今ではスラムの排ガスによって汚された老いた桜が花を咲かすことは二度とないだろう。


公園の長椅子に腰かけるシュウ。その隣には浮浪者と思われる小柄で痩せこけた老人の姿があった。
シュウは老人に話しかける。「…師よ。」

老人の目線は中央の池に注がれている。


シュウ「私は時に自分の成してきたことが無駄なのでは無いのか不安に駆られます。私が未熟者だからなのでしょうか?」


老人は答えない。
返事の無い老人を見てシュウは、自分の問いかけの答えを自分が持っているのだろうと納得した。
だとすれば、愚かなことである。魔が差したのだろう。

いや…人生のほとんどが、光の差さぬ暗闇であるのならば、魔が差すという言葉事態がナンセンスだろう。
人はその中の一条の光明を―
「シュウさん♪」

ニコが手を振り歩いてくる。傍らにはコシローの姿。そして、出来れば来て欲しいと願ったシュプルの姿があった。



ある日のこと―
シュウはシュプルに提案を出した。『たまには街に出ないか』と声をかけた。
シュプルは彼らには気を許してはいない。しかし彼も込み入った事情があったが故に、仕方無しにその誘いを受けることにした。



一同に誘われた人々が集まる。

アクロス・ベネディクト博士は、本来ならこんな誘いには決して乗らない人物だった。
「花見に行こう」とシュウに誘われた時は、正直耳を疑ったほどだ。
彼女の知る限りスラムで花を見ることのできる場所など心当りが無い。

ロマンチストなんだか―

頭が悪いのか―

彼女は悩んだが、リアリストである自分には欠けた“そんな妄想”に引かれたのも事実だった。
結局彼女は公園に足を進めてしまった。



アクロス「何じろじろ見てるのよ」

ニコ「いや来ないかと思って…」

失礼ね―とアクロスの顔には書いてあったが、いちいち言葉を交わすことも面倒臭いようで、アクロスは何も言わなかった。
やがて何かを思い出したように、背中に担いでいたリュックサックを下ろす。
「そうだ、忘れていたわ。暇そうにしてたから“ペッツ”を連れてきたわ」



アクロスは“持ってきたわ”の間違いのようにリュックサックの口を開く。
中につまっていたのは手も足も無い体の少年だった。
ともすれば残酷な構図にも映りかねない様子でその少年の青白い顔が外気にさらされる。
ペッツは小さく「やぁ…」と呟いた。


アクロスはそのリュックサックをぞんざいな扱いでニコに投げつける。
狼狽したニコは慌てながらもそれを受けとると、仕方無しにそれを背中に背負い直す。




桜など何処にも咲いてなどいない。
公園がもう少し綺麗なら情緒もあったのだろうが、どうやらそういう感傷には預かれそうもなかった。
しかし、コシローやニコは、皆でワイワイ出来たり酒が飲めたらそれで満足なようで、さして気にする様子は無い。
コシロー「楽し〜♪」

ニコ「たまにはいいですね」



シュプルは非協力的で、敵対的な態度を取っていた。シュウに対しても不信の眼差しを向ける。
シュウ「―というわけで、ギャングは気にしなくていい」

シュプル「頼んだ覚えは無いね。恩着せがましいことするな」



シュプルは目線も合わさない。声もかけられたくないと言わんばかりである。
コシロー「か〜カワイクねぇ!?」

ニコ「まぁまぁ…俺達もこんなだから」

ペッツ「こんなってどんな?
それより何か食べさせてくれないかな。あ〜ん」




口論を繰り返し、悪態をついて、不器用な会話が続いていた。会話の上では凡そ自分達は上手く行っていない。
チームになんかなれないだろう。

だが、アクロスにはわかっていた。
シュプルと皆の距離が近い。シュプルは本能的にこの大人が自分を傷つけないことを理解し始めている。
例え本人にその理解が無かったとしても。


〜シュプル
私も想像できないわ。
こいつ等はあなたを害さない。〜

「無神経さを除けばね―」

最後の皮肉だけが口をつく。




《庭園:スズ》

パトカーを駆って巡回するのはドライブのためでは無かったが、今回ばかりは目の前の軽犯罪はスキップ。
通りでは“ひったくり犯”
(今回ばかりはゴメン)とクリスは内心呟く。


今回は人を探している。
町内会自警団だが―
近所の自警団だとか―
名前も定かじゃないが…


「いや…あれはどっちかっていうと殺し屋だったかな♪そのほうが適切な表現だと思う。」

助手席のスズが口を挟む。
(コイツはついてきているだけで良しとしよう…)
クリスはそう納得した。

不意にスズが口笛を吹き、目線を反らす。何かを発見したことが、すぐにわかる。
クリスはそちらに目を向けた。
クリス「自警団の皆さんじゃないの♪ちょっと!早く言いなさいよ」

スズ「え?いやぁ気が付かなかったな〜♪」

清々しくとぼけるスズ。




《庭園:シュウ・スズ・ニコ・コシロー・ペッツ》

「やぁお元気かしら町内会自警団の皆さん…で良かったかしら?」

酒の回ったコシロー、吐き戻し続けるニコ、アルコール接種不可能のシュウ達である。
シュウ「あの時の婦警さんか。仕事中で無ければ一杯すすめたいところだが?」

クリス「いただくわ。今日日、飲酒運転&職務中の飲酒は犯罪のうちに入らないもの。…それにしても妙な取り合わせね。」


クリスの目線はシュプルに向けられる。
見渡す限り居心地の悪そうな状況にシュプルは閉口。ふとシュプルとスズの目線が合う。鏡写しのように二人は同じ表情。
シュプル「…早く帰りてぇ」

スズ「…あぁ」



クリスが手渡した書類の束。
今どき紙で山積みというのめ管理がしづらいことこの上ないが、一同はそれに目を通しながらグラスを傾ける。
コシロー「頑張ったね。でも俺みんな知ってる〜」

タベカスを落とすコシロー。
クリス「あぁタベカス落とさないで…」


シュウ「…ありがたいが、こんな危険なことは、これきりにしたほうがいい。」


「は?」

クリスは予想しない答えに驚いた。自分達はこの街を守ろうと考えてるはずなのだから。
何故…

シュウ「警官の君がこれを調べると、警察全体に対してギャングとの対立姿勢が誤解されかねない。
君の身が危険にさらされる」

スズ「ちょっといいかな♪お前俺を仲間に誘ったよな?」

シュウ「君の身が危険にさらされる」

クリス「警察官がやらなくて犯罪撲滅にそれより適職あるの?」

スズ「無視すんなよ」




結局最後までシュプルはバッカーナについての質問は受けなかった。

“当然”の予期された質問はなく、シュプルとしては肩透かしを食った感がある。
だからといってこちらから切り出すのはばつが悪い。
シュプルは知らず知らずに悩み始めていた。

そんな悩み事はやがて『バッカーナの情報を、既にコイツ等がつかんでいるのでは?』という不安に発展する。

(どうしよう…聞いてしまおうか?)

こうなると立ち去ることも容易には選択できない。


やがてその緊張感に負けたシュプル。疑問が口をついた。
「なぁ…バッカーナはどうして来てくれないのかな」

(しまった!)



シュプルは動揺する。
そんな事が言いたかった訳じゃない。
弱味を見せるような台詞は吐きたくない。少なくともコイツ等には絶対。

「いや…その…バッカーナはどうしてるかって…」

(悔しい!)

(悔しい!)

(悔しい!)



苦虫を噛み潰したようなシュプル。
コシロー「いやまだ見つかってないよ。」

脊椎反射で即答するサイバー忍者コシロー。アルコールのせいか、いつもにもまして舌の回りが早い。

シュプル「…そうか」

思わず安堵。予想した最悪の答えではないらしい。




バッカーナの会話がすぐに打ちきりになったことは、アクロスには苛立ちであった。

(バッカーナの情報を聞きたくないの?
それとも今のシュプルの質問でバッカーナについて知らないとわかったから、聞く必要は無いの?

わかってるの…
それは感傷よ。
私達はバッカーナと対決するんだから、どうあってもその子を傷つけるのよ?)


必要なことはわかった。
シュプルは立ち上がり、一同に背を向けた。
後はさっさと帰るだけだ。何よりさっきの失態で、居心地が悪い。
ニコ「帰るの?」

シュプル「ああ」



その背中にシュウが声をかける。
「シュプル。また花見をしよう。今度はみんな連れてきなさい。」


シュプルは「桜が咲いたらな」と皮肉を返す。
シュウ「ああ。桜が咲いたらな。」





……

………

シュプル「バーカ」



そう言って駆け出していく。
桜なんて咲くはずないじゃん。もう随分前に木々は死んでるんだから。
そう分かっていた。




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