ガープスサイバーパンク ガーディアン・オブ・アグノシア

《警察署:スズ》

警察署は相も変わらぬ賑やかさを持っていた。
毎日のように積み上げられる市民の苦情。殺人事件の件数は上限ごえとあっては本来なら休み無しという状況である。
しかし、爪を磨く警官はいても、働く意欲のある警官は一人もいない。
公僕の安月給に命を張るような意味など無いのだ。


いや、一人いた。
今日も善意の警官クリスだけが署長室で声を張り上げていた。
クリス「ギャングの抗争に子供達が巻き込まれているんですよ!何か対策を立てるべきです。」

クリスの相棒のスズと署長はうんざりした様子でその話を聞く。


今日も堂々巡り―
意味をなさない会話―


署長室から出て来るクリスは苛立ちを隠せない。スズは呆れ顔で続く。

―これもいつもの光景。

スズ「お前♪署長に話して意味があると思う?
はっきり言って意味無いよ。」

車に乗り込む直前のクリスが静止する。
彼女の瞳にも涙が滲む。
「…わかってるわよ」


スズ「それだよ。お前わかってて、それだろ?
何もしてないも同じだから。」


クリスはハンドルに突っ伏す。言葉が出ない。無力感にうちひしがれる。
スズ「やるなら、もっと友好的なやり方があるんじゃね?」

クリス「例えば…?」

おどけたスズ
「ギャング同志を殺し合わせるとか、さ♪」


クリスは考え込む。
その姿にスズは失言を実感する。何かよからぬことを考えているらしい。
スズ「何…考えてる?」

クリス「ギャングの情報とか集めましょう。自警団と連携するの」



車から飛び出すスズ。
スズ「一人でやってくれ!俺はやんないからな!」

クリス「スズ!ちょっと聞いてよ。」

スズ「嫌だ!」

―スズはクリスを無視し歩き出す。




正義には実行力が必要であるというのは、平和な社会の上では忘れやすい言葉だろう。
スラムの常識は暴力こそが力であり、正義ですらその混沌とした価値観の一つに過ぎない。
正義を行使したければ、強くなくてはならない。








《バー:シュウ》

その日。
シュウは一人、ギャンググループの1つの縄張りであるバーに首を出していた。
食事の必要の無いシュウが訪れたのは明確な理由がある。
バーのマスターは直ぐにギャングに連絡を取ると場には武装したサイボーグが乗り込んできた。
客は逃げるように立ち去り、広い店内には彼らだけが残された。

ソファーに座るシュウ。向かい合う顔役のギャング。
ある程度の地位にあることが伺える。
武装サイボーグは苛立っていた。
シュウもまた敵には違いない。

男は訪ねる。
「面白い時期に顔を出しやがる。わかってるか?今街は緊張してる。それこそバーのグラスも取り損ねられないぐらいな。
わかるか。何しに来た?」

シュウ「ストリートキッズはこっちでカタをつける。手を引け。」


男はいぶかしむように見上げる。シュウの表情はわからない。
「ガキには興味ないが、アイツらには裏がある。知ってるだろ。そっちにようがあるんだがな…」

シュウ「アイツの背後にいるのはバッカーナ。俺達で始末をつける。」


武装サイボーグはざわめきたつ。
“手を出すな”というジェスチャーだ。
ギャングには美味しい話か?
いや体面がある。横からしゃしゃり出てきた奴等が解決したとあっては示しがつかない。

若い構成員が叫ぶ「ふざけんじゃねぇ!」

シュウは動じない。
「他の奴等にも言っておけ。そうしたら、手間を省いてくれた礼ぐらいは言ってやる。」


武装サイボーグの手が銃を掴む。
その時にシュウの刃が走る。銃を掴む手が薙がれ、別のサイボーグのトリガーにかかった指を落とし、殴りかかったサイボーグの脚を切断転倒させる。

「やめねぇか!」

―と男が一括。男達は皆燦々たるありさまだったが死者は無い。加減されたのだ。
既にシュウの刃は鞘に納められている。


男は笑み混じりに返事を返す。
「“手間を省いてくれた礼ぐらいは言ってやる”だと?
こっちのセリフだ。バッカーナ一味を始末するなら、今回の一件だけは見逃してやる」


男にはわかっていた。
断ればシュウはこの場の全員を殺しただろう。
組織にも噛みついただろう。血の雨が降り、スラムのパワーバランスが変わるだろう。
だれもそんなことを望まない。

シュウは衣服をただすとカウンターの上に騒がせ賃を置いていく。
店のドアを開け出ていくその後ろ姿に、残された男が呟く。

「正義のヒーロー?
殺し屋だろう。」










《ストリートキッズ隠れ家:シュプル》

うずたかく積まれている食料品の山を見ては、シュプルは苦笑する。
いったい…どれだけ食べろっていうのか?

3人組はあれから間を置かず現れる。
会話のキャッチボールの出来ない押し付けに、正直うんざりしていたシュプルだったが―

「大人と話すという行為自体は嫌いじゃないのかもしれない。」

そんなふうに思うことがある。



シュプルの元にも噂は耳に入っていた。
ギャングはストリートキッズ捕獲を一時保留にしたらしい。
シュウ達が乗り出してきたせいで、ギャング達の抗争状況はややこしいものになりつつあった。
「アイツらはバッカーナと戦うのかな…」

(だとしたら、協力なんかできない)


「お兄ちゃんどうしたの」

シュプルはふと自分が弟に食事を与えていたことに気が付いた。努めて平静を装う。

「何が?」

―弟はそれ以上訪ねない。自分にはわからないことばかりなのである。
だけど、今シュプルが楽しそうだと、そんな風に見えた。


不意にシュプルの耳に、騒がしい口論の声が響く。
ストリートキッズ達の対立である。
(またか…)
―とシュプルは舌打ちをした。

閉鎖された環境に長くいることはいいことじゃない。仲間達との不和のもとにもなりかねない。
ストリートキッズは今や隠れ家の窮屈な生活に疲れはて、度々中では喧嘩なども起こりかけていた。
(あまりこれ以上は隠れ家にもいられない。)

シュプルは早くこの状況を打開しなくてはならない。
現在の状況が分からず、情報屋としての機能が麻痺してしまえば…存続問題に関わる。

何より―

コンタクトを取らないバッカーナが気にもなる。




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