ガープスサイバーパンク ガーディアン・オブ・アグノシア

《クライマックス:シュウ・スズ・ニコ・コシロー・ペッツ》

睨み合う二人。
まるで剣豪同士の立ち会いのようだった。
フォースソードを抜いて構えるコシローは深く兜をかぶり直す。
バッカーナも銃を手に前傾。
格闘するつもりだ。

しかしコシローは忍者。バッカーナはハッカーである。両者の優劣は明らかに見えた。


しかし―
飛びかかろうとしたコシローの視界が暗闇に覆われる。
兜の内のスクリーンが消える。
発砲音。肩を撃たれる。

コシロー(マズくね!?)

鈍痛、出血。
コシロー(ステルスを使い離脱するか?)



ステルスは言うことを効かない。
その時になってコシローはようやく装備品のコントロールを奪われたことを気が付く。


銃撃音!
気配を察して跳び跳ねるコシロー。辛くもかわす。
邪魔なだけの兜を投げ捨てる。バッカーナを視界に捉える。
バッカーナは余裕だ。


コシローは手裏剣に手を伸ばす。体が重い。
コシロー「あちゃあ、この服も機械の駆動式だっけか!?」


手も足も出ない。




ダダダ!

マシンガンの銃撃音がバッカーナの背後で響く。
思わず撃たれた…という反応を返すコシローとバッカーナ。ふと気が付くと二人とも傷はない。


シュウとニコ、そしてスズの姿がある。
ニコはマシンガンの弾詰まりに苦しんでいた。まさしく千載一遇のチャンスを逃したわけだ。
シュウ「大丈夫か!?」

ニコ「シュプルは?」

コシロー「かなりマズイみたい!」


シュウはゆるりと刀を抜き放ち、ニコはマシンガンを振り回した後、鈍器のように構え直す。
スズもまた刀を構えるが両手構えのシュウと対象的に片手構えである。


バッカーナは眉を潜める。この数はバッカーナとしても大変な数である。
バッカーナ「さて、骨が折れる。そこで俺は―どうすると思うね?」


ニコ「逃げる気―!」

と言いかけた時、突然の旋風が吹き抜ける。首根っこを引っ張られ後方に放り投げられるニコ。
投げたシュウも後方に飛びすさる。
スズもまたシュウと同じく身を翻したところを見ると何かがあったのだ。


足元は大きく抉られ、削り取られていた。



スズ「新手かよ」

シュウ「―のようだな」

まったく見えていないニコ。
ニコ「え?」



暗がりの中に赤い光が脈動する。そして次第に浮かび上がる姿。
黒いサイボーグである。



時間は十分ある。
シュプルがを助けに行くのは1分もあれば十分だ。
サイボーグとの戦いにかかる時間は数秒だろう。


スズは刀を片手に片手をぶらぶらとさせた。
「正面切って戦うようなキャラじゃないから、暇にさせてもらうぜ」

―隙あらばいつでも斬り込むという態度がみえみえのスズ。
“正々堂々戦うばかりが男じゃない”
―それもまた美意識である。
心得たとばかりのシュウ。ニコはシュプルをなんとかしてくれるだろう。



《1ターン目》

対峙する二体のサイボーグ。白と黒。


白いサイボーグは衣姿で手に刀を携えて構える。その武器は卓逸した身体能力にこそある。
黒いサイボーグは武器こそ帯びていないもののその体は全身が内蔵された武装の塊である。



睨み合う二人。
殺気が交差する。
それは刹那の時間であった。

“黒”が動く。

全身を弾丸のように打ち出し、高速回転する空気の刃を腕に多い白に“拳”を叩きつける。
触れるもの自体を削り取る拳を受けるすべは無い。しかもこの目に見えない刃の及ぶ範囲はおそるべく広い。

“白”は屈む。全身をしならせ、まさしく転倒でもするかのような低い姿勢で“

黒”の拳の制空権から逃れると、刃を横薙ぎ一閃切り返す。


刀の柄を持つ腕ごと掴む“黒”の拳。刃はすんでで振り抜けない。
突然発生した重力波が“白”を襲う。回転する力が加わり全身が捕らえられる。
自在に重力遠心力、力場を発生させる独自の投げ技である。


しかし、“白”はその意図を読むと先に、投げ返しを放つ。自分の位置すらつかめない“黒”。
回転、辛うじて受け身を取る。
その全身運動に振り回されたか“黒”の背の金属部品が外れて地面に跳ねる。
外れて―


いや、それは切断されていた。
“白”が斬りつけた刃を“黒”が受け止められた時、“白”は刃を握り直し、回る刃が“黒”の背を掠めていたのだ。



シュウの優位を感じた直後、状況は一辺する。
その動きが静止する。
シュウ「五感が奪われたか!?」


光も闇もない、音も感覚も無い閉鎖された世界に閉ざされるシュウ。
指の一本も動かせず、動かしたとてわからない。


その隙をつく黒のサイボーグ。身構える―
しかし機先を制したのはスズの刃。



バッカーナは自身の勝利を確信してはいたが、敵の多さに閉口してもいた。
「手早くすまさないとな」


「そうね」

コートを羽織った赤毛の女の姿が視界に入る。女はバイクから降りるとこちらに鋭い視線を向けた。
雰囲気からあいつらの仲間であることが伺えた。

(あの顔は…)

バッカーナも心当りがある。『アクロス=ベネディクト博士』。
独自の考え方をもったサイバネ技師である。
(コイツが後釜か…)




アクロスは銃を抜く。
電脳分野専門であるアクロスが躊躇無くバッカーナに、銃口を向けたのは、バッカーナが自分よりスキルの点で上回っていることを理解した上での選択だった。
バッカーナが身構えるより早く。その眉間に銃口を突き付ける。
躊躇無く引き金を引く。


しかし…
指が氷ついたように動かない。
瞬間アクロスの視界がかすれ暗闇に覆われる。
(五感を奪われた!?)


アクロスは視覚と人より劣る運動神経を補うためのチップ改造を行っている。
今奪われたのはそれだ。


バッカーナは反応に遅れたわけではなかった。
こちらの体を掌握にかかっていたのだ。



悠然と構えるバッカーナ。
銃口をアクロスの眼前に向ける。
アクロスは気が付くこともできない。

「じゃあな」

笑み混じりの別れの言葉が投げ掛けられる。
そして…




……

動かないバッカーナ。
ようやく事態に気が付く。

引き金が引けない!?




(ペッツ「アクロス。バッカーナを確保した。長くは持たないから。」

アクロス「ペッツ。視界を奪われたわ。あいつがどこにいるかわからない。」

ペッツ「こちらからはわからないな。支援できない。でも多分君のかなり傍にいる。」)




《2ターン目》

今にも崩れそうな危うい拮抗―
向かい合う銃口―


しかし、全体を見るならばこれは明らかな不利な状況と言えた。
黒いサイボーグと戦うスズは体をサイバー化こそしていなかったが、部分的にはネットプラントを受け端末素子を有していた。
これによって得られる視覚などの五感情報は、今はバッカーナの流した誤情報によってスズに不利に働いている。


加えてスズが相手にするのは特化した最先端の戦闘サイボーグであり、その技術力たるやスラムの武装サイボーグの非ではない。
しかし、その圧倒的な不利の中スズはそれに対峙していた。


黒いサイボーグの拳が放たれる。人間であるスズがこれを食らうことは確実な死を意味していた。
しかし、スズはその拳をかわす。
視覚情報抜きに、直感のみを頼りにスズはそれをかわす。
(無理無理…マグレだから。それに長くは持たないよ?オレ♪)


呟く軽口に反して、スズは素早く反撃する。
呼吸を整え、全身の緊張をほぐす。一瞬の脱力から転じて細胞総てを躍動させるような練気を持って、スズの掌打が放たれる。
黒いサイボーグの引き戻すの拳を打つ!


“気功”という技術は、拳法でいう伝説や逸話に過ぎないと思われていたが、スズが用いたものこそがまさにそれである。
強化人間であるスズは、ドーピングなどにも強い適応を示す、活性細胞の持ち主であり、彼はその生体電流を増幅する術を持っていた。
人間であればスタンガンで打たれた程度の衝撃であるそれであったが、スズはそれを肉体の任意の箇所に伝導できる。

文字通り“サイボーグの脳を焼く”のである。




黒いサイボーグは腕の外装を剥がし、肘を切り離すことで、辛うじて凌ぐ。
彼も予想だにしない技術だったろう。



反撃に転じたスズの様子は一変していた。
足元はおぼつかず、全身から流す汗は、その一撃が簡単に使えるような代物ではないことを示唆していた。
スズ「あと…1回。良くて2回かな?」


それを放てばスズは気を失うだろう。下手をすれば命にも関わる。




《3ターン目》

身動きの取れないシュウにコシロー―

バッカーナと対峙するアクロス―

黒いサイボーグと戦うスズもまた窮地にあり―

武器の無いニコは戦力となれない―




その時、小さな呟きがあった。ともすれば聞き逃してしまいそうな呟きが。
混濁した意識の中、シュプルは夜空を見上げ、その庭園に呟きを洩らす。

「…サクラが…見える」




シュウのPSY:テレパスは消えゆくシュプルの呟きを感じとり、彼と意識をつなぐ。
もはや目も見えないだろうシュプルの目に浮かぶのは、確かに咲き誇る桃色の花々。
明るい光に包まれて、その光景を見上げる無邪気な瞳。
そんなシュプルをシュウは見た。


そのシュウのテレパスは、瞬く間に周囲とも繋がれる。
コシローもその光景を見上げ、ニコもスズもアクロスも…バッカーナ達ですらその世界を見た。


幻覚ではなかった。
シュウのPSYはテレパスとサイコメトリー・未来予知を重ね、過去の咲き誇る庭園の残り香を鮮やかな花々を再現し、過去から未来までを繋ぐ。


確かにかつてここは花咲き乱れ、人々がそれを見上げて感嘆の息をのんでいたことだろう。



長い髪をたなびかせる黒髪の壮年男性・シュウと向かい合うのは黒髪の青年。
まだ若いながらも暗く淀んだ瞳の青年の姿。黒いサイボーグである。
サイボーグは攻撃にかかっていた。

―だが見える!





その瞬間!
アクロスが発砲。
眉間に向けられていた銃口だが、射撃スキルチップを書き換えられたアクロスの弾丸は目標をそれ、バッカーナの肩口に命中!


黒いサイボーグの動きにシュウが反応する。
この異変を察知したサイボーグは、攻撃を踏みとどまる。身を翻し刀を辛うじてかわすと、跳躍間合いを取る。


すかさず動き出すコシロー。
不利を感じとり、黒いサイボーグは牽制の構えに入る。


バッカーナは場を放棄すると逃走。闇に向かって走り出す。
(撃たれた痛みによってハッキングが集中できない!?)


戦況を維持できないと理解したバッカーナは、すぐさま撤退へと切り替えた。



逃げるバッカーナへの射撃。
アクロスの射撃は狙いが定まらない!?
射撃スキルチップが機能していないのだ!
―続け様に撃った3発は闇に消える。

「バッカーナが逃げるわ!誰か―」





スズは安物のリボルバーを取り出すと素早く構える。暗闇の中、この射程ではもはやギリギリである。


しかしスズには確かな自信があるのか、躊躇いなく頭部に狙いを定める。

―そして引き金を引く!



ダン!

ダン!







男が暗闇の中で倒れた音がした。
後は静けさと沈黙だけ。
スズは確実性のために2発発砲していた。
弾丸は狙いたがわず頭部をに命中。
即死であった。



黒いサイボーグの姿は消えていた。
おそらく今の一瞬に立ち去ったのだろう。




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