ガープスサイバーパンク ガーディアン・オブ・アグノシア

《スラム〜庭園:シュプル》

どこをどうして走ったのか覚えていない。
暗闇のスラムを走り抜ける少年。転び倒れ傷ついても、誰の目に止まるでも無く、関心を持たれるでも無い。

「―助けて」

恥も外聞もなく、涙を流し、誰というあてもないまま助けを求める。


もう、とうに助けなど来ないことは分かっていたのに。シュプルは泣き叫び続けた。



(俺、弟を見殺しにした)
今まで自分が信じてきたものも、大切なものも無くなった。



(ごめんよ…ごめんよ)
謝る仲間もいない。

弟もいない。

もう多分未来もない。

なんにも見つからない。



いつのまにかシュプルは庭園に逃げ込んでいた。
まるで今朝のまばゆい希望にすがるように。その残り香が自分を救ってくれると祈るように。
しかし閑散とした公園には人気はなく、そこには自分が望んだものはどこにも無かった。
…無かったように見えた。


そこにいるはずの無い、人影を発見した。
会いたいと思っていた人影を。


「…バッカーナ!?」

忘れることもない背広の男。いつものように飄々として不意に現れた。


「バッカーナ!」



叫ぶなり駆け寄る。安堵のために涙が溢れる。
助けを求めて手を伸ばす。
すがりつく。
信じていた人。



バッカーナは駆け寄るシュプルに銃を向ける。
そして―発砲。
その指先には感慨も躊躇もない。




―やはり、ここには何も無かったのだ。―
―シュプルが望んだものなど何も―



「……バッカーナ」
血みどろになり喘ぐシュプル。血は地面に広がり急速に体が冷えていく。
痛みはまだわからない。


「……俺がしくじったから?」

シュプルは思ったままを口に出した。




バッカーナは銃を構え―

止めを刺そうとした時だったが、その呟きを耳にすると突然に笑いだした。
込み上げた笑いが我慢できないというヤツだ。

「ゴメン、ゴメンよ。シュプル。
こんな時ぐらい笑わずに送ってやりたかったんだが…、お前があんまりにも…
ほら?
頭が悪いんで笑っちまったよ。」


「…え?」


バッカーナは続ける。
まるでシュプルを見送る言葉でも綴るように。
「お前を幹部になんかするわけないじゃねぇか。利用したんだよ。
そして今お前を捨てただけだ。始めからこうするつもりだった。
まぁこんなに豪華じゃ無いがな。」


シュプルの瞳に絶望がよぎる。「…嘘」



「とことん便利に出来てるんだな。お前は?」



銃をシュプルの額に押し付ける。シュプルは震えながら目を閉じる。
「…や、やだ」



バッカーナは感慨無く引き金を引こうとした時、ふと目線を離す。





「その子から手をはなせ」






目の前に現れた姿。
まだ若い東洋人の少年。
サイバー忍者コシローである。


シュプルも瞳を開けて彼を見る。涙が溢れる先ほどまでとは違う安堵の涙。
嗚咽。鳴き声を上げて鳴き始める。


コシローは屈託無く笑う。「シュプル。もう大丈夫だからな」


バッカーナはコシローを睨む。
「またお前か?」


コシローは余裕綽々。フォースソードを抜き放ち、バッカーナと向かい合う。

コシロー「うひょー!俺、超カッコイ―!」





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