Middle phase 

          

【〜5年前・婚約者〜】


5年ほど前の話だ。

GM:久しぶりに聞いたかつての恋人の話題に、イヴァンは彼女のことを思い出す。



イヴァン:本当は早く忘れたほうがいいことかもしれないが。


GM:馬の蹄の音。ずっと続く草原。君のよく知る土地だ。彼女…エルフィーナとともに、馬の遠乗りをしている。「この草原が…ずっと続いているの?」

イヴァン:「ああ」

GM:君にはよく見た景色だ。

イヴァン:「飽きるほどにな」

爆笑!

GM:「凄い…凄いわ。いつもこんなところを走っているのね。いつか行ってみたいは、その草原の向こう、その向こうまで……。」

イヴァン:「何処まで言っても同じさ。」

GM:「本当に」

イヴァン:「試してみたいと思ったことはあったが、状況はそれを許してくれなかった。俺はそれほど暇ではなかった。」

GM:「ふふ。難しいことを言って。」

イヴァン:「あの先に行っても、……陽が落ちるのを見るだけだ。」

GM:「……そう」彼女は箱入り娘で、何もかも自分とは違っていた。彼女の印象は何かすると壊れてしまうというようなものであった。

イヴァン:「陽が上るのを見て楽しめたら、毎日が楽しいだろう。」

GM:「そうね。今度見て見たいな。」

イヴァン:「…悪くない。楽しく生きる秘訣か。古代の人々にあった話しだ。その月を楽しみたければ風呂に入り、生涯を楽しみたければ妻を娶れ。今でも通用するはずだ。」

GM:「あの……それって……そういう意味だと……思っていいの?」


大貴族の娘と成り上がりの野蛮人の逢引は、周囲に知れていたが、それを黙認していたようだった。
彼女もその遠乗りを楽しみにしていた。いつかの約束が叶う日を。

悪くも無い生活だった。俺もこの領地に腰を落ち着けるのもいいかと考えていた頃だ。
そして夜明けを見に行くという約束の下、二人はまた遠乗りに出かけていた。



GM:その日の夜、宛てがはずれ、生憎の雨風が二人を襲った。

イヴァン:神様も酷いな。もうヤツには祈らない。「たいしたヤツじゃない。雨一つ止めることもできないヤツだ。」

GM:君は野営のための天幕を広げ、雨風を防ぐ用意を整える。天幕の皮の一枚を隔てて、外ではビュウビュウと風が吹き荒れていた。

イヴァン:「こんな景色も見ておいたほうがいい。ずっと昔から続く光景だ。」

GM:彼女は時々天幕をめくってみている。

イヴァン:「じきに飽き飽きする。」と火を起こす用意をしていこう。

GM:ドキドキしてみている。

イヴァン:「ドキドキしているのは初めのうちだけだ。そのうち、『火はまだ起きないの』って言うようになる。経験者は語る、だ。」

GM:彼女は風雨に濡れた体を寄せて、話に耳を傾ける。

イヴァン:「おかしな話ばかりしているな。貴族の令嬢を喜ばせる詩才でもあればいいんだが、生憎俺には持ち合わせが無い。」

GM:「おかしな話って。」

イヴァン:「そうだな。草原の野鼠は都会の連中とは違う。普通なら獣は逃げそうなものだが、奴等は逃げない。興味がわいて近付いてくる。好奇心旺盛なんだ。」

GM:「そうなの?」

イヴァン:「人間を見たことが無いからな。奴等を捕まえるとき、布を振り回すんだ。すると奴等は寄ってくる。そこを捕まえる。」

GM:「私はきっと捕まってしまう。」

イヴァン:「じゃあ、君は奴等の気持ちがわかるだろうな(笑)」

GM:ぎゅっとエルフィーナは腕を掴み「珍しくて、珍しくて」と呟く。「それで、その後どうされてしまうの?」

イヴァン:「食べられてしまう。」

GM:「食べられてしまうの?」

イヴァン:「仕方無い。そういう世界だ。」

GM:クスクス笑う彼女。「怖いわ」

イヴァン:「少しでも慰みになる言葉を捜すのなら、あれは絶品なんだ。」

爆笑!


イヴァン:「鼠って言っても、想像しているようなもんじゃない」

GM:「どう違うの?」

イヴァン:「食べ応えがある、だ。」

爆笑!


イヴァン:良くないな。『食べ応えがある』『可愛らしい』選択肢が出ていたんだが、制限時間に急かされて間違えた。

GM:エルフィーナが見上げて瞳を覗き込む。「私も食べられてしまうの」

イヴァン:「ああ。」


そして夜が明ける。
朝焼けの中、一つの毛布に包まった二人は空を見上げ、嵐の過ぎ去った透き通る空を見上げるエルフィーナ。


イヴァン:膝の上に乗せる。「寒いだろ?」

GM:「凄いね」

イヴァン:「ああ」

GM:何度も何度も見てきた光景だったが、その日の夜明けは忘れられないものであった。

イヴァン:ここにいてもいいと、そんな風に思っていた時代だ。




時に慣れ親しんだ日々であれ、そこに価値があると分かるのはそれが過ぎ去った過去であるからなのだろう。
俺が国王や彼女に抱いていた感情は、今ほど正確には口に出せなかっただろう。

だが、今、口に出す感情は、当時のものと同じであるとは言えないだろうが。



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