Climax phase 

         

【王国存亡の戦い】


特使を打ち払ったレトワールの小気味良い勝利は、イヴァンの登場と共に王国の敗北へと転じた。二日で二つの領土を落としたという電撃的な戦は、王国の人々を震撼させた。
サラミスを失ってようやくこのイヴァンと互角に戦える人材の稀少さを知り、彼の実力の高さを気がつかされたが、それは既に遅きに逸していた。
多くの民兵が死に、領土は焼かれ、略奪された。

イヴァンの軍勢は片目の巨人と呼ばれるゴロンゾと、獅子の子と呼ばれるフラガッハの二人を伴い王都に迫っていた。人々を絶望させたこの軍勢に、国中の勇士と言う勇士が挑み、次々と消えていった。



GM:スターシャは報告書を読む。「ブランバン将軍に動きはありません。もし我々の眼を欺き、動いていたとしても、この様子なら、どれほど早くブランバン将軍が進軍しても間に合わないでしょう。」

イヴァン:「王都に迫るまでが早かったからな。」俺は情報を鵜呑みにしているわけではない。万が一はある。ブランバンの動きを破るためにはこの進軍速度が必要だった。


GM:「次はいかが致しますか?」降服の勧告のタイミングを見計らうようにスターシャは訪ねる。

イヴァン:「待て。前線は二人に任せ、俺達は後方に待機だ。」

GM:「何をお待ちなのですか?」

イヴァン:「何か、だ……実のところ、俺にもわからん。本当にな。」








チェス盤を一人見下ろす国王。
「この期に及んで全てが悪手だ。」
そして瞳を上げる。「わけがわからんぞ。サラミス。」
彼は呟く。





毎日続く恐ろしい敗退の知らせ。
あと少し、あと少し目を閉じていれば全てが終わる。

王は一つの駒を取ると、それを盤面に置く。
幻影のサラミスはその手を見て呟く。
「それは悪手です」


「第一関門突破されました。」
「第二関門も突破されました。」
「レトワール姫!間もなくここも落ちます。」
「ぐぬぅ」私は舐めていた。サラミスも、それに勝ったイヴァンも。

「…刺し違えてでも」彼女は呟いた。


ある夜分のこと。
後方のイヴァンの陣営。ここには前線の戦の喧騒も聞こえず、その戦を窺い知るのはただ地図上の兵の駒ばかりである。



GM:おりしも2つの砦を落とし、都に辿り着いた軍勢は長蛇の陣となっていたのに君は気がついた。

イヴァン:うむ。遠征というものはどうも補給線が長くなってしまうな……任せられる武将も少ない……。と腕を組んでいよう。長蛇の陣となれば自ずと重厚さを欠く……三国志の劉備玄徳の敗北も長蛇の陣に起因していたな。


GM:その時、兵士の声が響く!「側面から奇襲!」

イヴァン:「何!何者だ!どこの部隊だ!」

GM:「旗印は国王!ソレイユ王の部隊!」

イヴァン:「!」





思慮深く慎重であると言われた国王は、戦に無縁と呼ばれる温厚さで知られたが、それゆえイヴァンであれ、その動きを失念していた。
王を守るため。王国の動きはそれが全てであった。それゆえにこの奇襲をイヴァンは許した。



イヴァン:「……来たか」

GM:天幕のスターシャも蒼白に見つめる。「どうします。」

イヴァン:「…是非に及ばず(今更言うに及ばぬだろう)。」


GM:この時国王は『王威の剣』を装備している。これは国のレベル分の攻撃力が上がるという武器で、さしものイヴァンでも300点近くになるダメージは一撃死だろう。いいかな。

イヴァン:構わん。だが俺は汚いぞ?

GM:では奇襲する。国王の部隊は陣に雪崩れ込む。そしてイヴァンの本陣に攻撃する。

1ターン目

行動値12 ソレイユ王の精鋭部隊。
行動値10 イヴァン1部隊

GM:ソレイユ王は天運を使い攻撃する。命中は(コロコロ)40。

イヴァン:回避はしない。当たる。

GM:当たるの!死んじゃうよ。馬鹿な。300点を耐えられるはずがない。ダメージは(コロコロ)81+『王威の剣』を宣言。ダメージ+300で381点。

イヴァン:ここでスターシャのカウント分のコストを使い獲得したスキル『要人救助』を宣言する。これは影武者や情報撹乱を使い、ダメージを0にするという能力だ。

GM:ああ!なるほど!それでスターシャを呼んでいたのか!

イヴァン:ああ。


GM:前線に兵を置き、後方に控えてスターシャを呼ぶ。この為だったのか。

イヴァン:そして『王威の剣』の効果は一度だけだ。天幕に突入したソレイユ王を迎えよう。「ソレイユ王。ようやく、話ができるな。」

GM:そちらの攻撃だけど。

イヴァン:いや、決着はついた。

GM:ではソレイユの刃を一合防いだとしよう。


ソレイユは奇襲が防がれ、敗北を悟る。これ以上戦っても勝利の可能性は完全になくなった。


イヴァン:「スターシャ」と彼女を招きいれよう。3人だけで話がしたい。「立ち会ってくれ。」

GM:「はい」

イヴァン:「ソレイユ王。この戦の勝敗はついた。」

GM:「…そのようだ。」

イヴァン:「ソレイユ王。自分ならば未だに王が勤まると思っているか?」

GM:「……くっ」

イヴァン:「もし、そう思うのなら。俺は死を装ってこの歴史の舞台から去ろう。」

GM:「イヴァン様!」スターシャの驚き、ソレイユも驚きで言葉を失う。

イヴァン:要人救助の効果は情報の撹乱なら、そういう使い方もあるだろう。「ソレイユ王。俺には借りがある。俺の無実の主張を受け入れてくれたのは貴方だ。今、恩を返そう。俺がいなくなることが、この国のためになると信じているのなら、俺は受け入れよう。」

GM:「それは……」


イヴァン:「だが、あえて言おう。ソレイユ王。貴方の代は終わったのだ。」


GM:ソレイユはその言葉を飲み込む。重すぎる言葉を。王は衣服の胸元を開く。そこにはネックレスに通された指輪を首にかけていた。

イヴァン:「持っていたのか……」

GM:「私にはまだ使命がある。まだ命があるなら、この戦を終わらせなくてはならない……」


ソレイユ王は理解していた。
王都に迫った北方の戦士はイヴァンでなければ止められないだろう。イヴァンが居なくなっても、結局、都は落ちるのだ。
そして王国には、これからはより大きな力をもった王が必要とされるのだろう。



GM:「イヴァン。その言葉が聞けただけでよかった……サラミスの心が聞けただけでも良かった。」


チェス盤には駒は一つしか残っていなかった。
クイーンが一つ。
それがソレイユの下した決断だった。



イヴァン:そうか、レトワールに全てを託すつもりでここに来たのだな。そういう作戦…危険に身を晒す作戦だ。


GM:「僕を……どうする…」

イヴァン:「このまま国に帰ってもらう。戦を終わらせるためにな。その後は幽閉か、追放か…とにかく人の手に触れないように扱わせて貰う。殺すことはしないだろう。殺せば民もレトワールは従うまい。それにそのつもりなら、話などしない。」


GM:「僕が…戦争を継続するとは思わないのか?」

イヴァン:「国のために必要だと思うのならやればいい。嘘偽りで生き残るのもありだ。それを責めるつもりはない。勿論。俺も手加減はしない。」

GM:「なるほど…君はサラミスとまったく違う結論を出したが、サラミスと同じように考え、徹底しているな」

イヴァン:「同じコインの表と裏だ。」


GM:「君とは別の形で会いたかった。」天幕を出るソレイユ。


イヴァン:「王よ。忠告しよう。」

GM:ソレイユの足が止まる。

イヴァン:「レトワールに国を任せるのは過ちだ。彼女は王国の存続より自分の感情を優先させる。そんな人物は国王に相応しくない。悪手だ。」


そして、この二人の戦争は余人の知ることもなくこの日終わりを告げる。そののちのことは物語の枝葉の部分に過ぎない。

国王の奇襲が失敗に終わり、国王の舵取りが降服へと傾いたことは、多くの国民の失望となったのは間違いない。祖国防衛をただ一度の失敗で投げ打つ国王は弱々しく見えただろうが。それは彼が現状を的確に分析していたに他ならない。



GM:名声は残して上げられればよかったんだけどね。

イヴァン:そうはいかんだろうな……。


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