魔境が解かれたとはいえ、森の奥深くに進んでいた一同は、もといた場所に戻るまで数日の道のりが必要だった。
それでも、その領地が手に入ったということは少なからずその道のりを楽しいものにしていた。



GM:夜の帳が降り、暗闇に覆われた森。天幕の中。ジェミニは腑に落ちないあの時の質問を訪ねる。「病魔の理を消し、あの魔物を生き長らえさせることもできたのですよ?」

イヴァン:火から目を移すが……「……」そうだな。俺のほうから説明することもあるまい。

GM:フラガッハはそっけなく答える。「それでは、この地に花が芽吹かない。」しかしその返事にジェミニは納得がいかないようで…「父親でもあると…伺いました。」と不満を漏らす。「そうだな。」とのフラガッハの返事が漏れる。

イヴァン:「ジェミニ…この地の掟だ」と首を振る。「俺は新参者だが、そのくらいはわかる。あれは誰かかやらなくてはならないことだった。」

GM:「一冬ごとに、我々はあのような魔物と戦っている。」とフラガッハはつぶやく。

イヴァン:「大変なことだ。人とばかり戦っている王国の騎士にはつとまりそうもない。彼らがこの土地を手に入れても持て余すだろう。」

GM:やがて天幕の外に響く風の音に耳を澄まし、「まだ吹雪くようだ。一眠りしよう。」

深夜、あの戦いの後の疲労を残すイヴァンの耳元に不意に気配を感じる。誰かが傍にいるのだ。




イヴァン:なんだ。俺は目を覚ます。

GM:フラガッハが横に座って覗き込んでいるのだ。

イヴァン:「なんだ。びっくりしたぞ?」

GM:「私の方がびっくりさせて貰った。壁の中の男達は、あの鎧が無ければ何もできないと思っていた。」

イヴァン:「おいおい。俺に鎧を着にくくするな。次からはアレを着るつもりなんだからな。」

爆笑!

GM:「試練には魔物を倒すというものもあった。だけど他にも辺境の王を倒すという試練もあった。いろいろな方法を考えていた。」

イヴァン:「いい機会だが、明日にしてくれないか。疲れているんだ。」

GM:彼女はそのまま上に跨ると見下ろしてくる。「夜襲をかけようかと…思う。」

イヴァン:「ん?今か、俺は手ごわいぞ」


GM:彼女は瞳を閉じ、自分の胸元に手を当てて話す。「あの時…魔境の中で感じた気持ちが、本当の気持ちなのか…確かめたいのだ。」

イヴァン:「待て!それは魔境のせいだ。」俺は身を起こす。「『感情変化』という魔境の力があると聞いた。そんなことで自分を試すな。」

GM:「な・る・ほ・ど。都の男らしい〜いい訳だ」と彼女はこわく的に舌なめずりをする。

イヴァン:「ちょっと待て!」肩を掴んで止める。「あー、そうか、それは俺も嫌いじゃない。だが、ちょっと考えてみるつもりはないか?」

爆笑!

イヴァン:「いや、俺はそれ自体は嫌いじゃない。だが、もしそれが魔境の幻だったとしたらどうだ?ただ傷つくだけなんじゃないのか?俺はおかしなことを言ってるか?」

GM:「貞操観念か?都の男は、やっぱり鎧を纏っていると見える。」

イヴァン:「いや……だが…な……」

GM:迫っていた手を止めて不安げに瞳を覗き込む。「なんだ……想い人でもいるのか?」

イヴァン:「………」

GM:「……」

イヴァン:「いや、昔の話だ。」

GM:「本当?昔の話なんだな?」

イヴァン:「ああ……」

GM:「本当?」

イヴァン:「本当だ。俺はぞんざいに扱ってしまうようで心配なだけだ。」

GM:「それは私を慮ってか?それとも自分の気持ちを、か?」

イヴァン:「っ」……痛いところをつくな。

GM:フラガッハは何か痛々しい傷に触れてしまったように、バツの悪い顔をしている。気まずい沈黙。

イヴァン:「……ふぅ(ため息)」

GM:「……よい、よい。無理強いは………せぬ。」

イヴァン:「恥をかかせるつもりは――」

GM:「隣は……良いか…」

イヴァン:「ああ」

GM:隣に寄り添うように肌を寄せるフラガッハ。目を閉じ、外の吹雪に耳を澄ます。「まだ寒いゆえに…な?」

イヴァン:「ああ」


GM:それから暫くフラガッハは静かになる。

イヴァン:寝ているのか?

GM:フラガッハは少し黙り込み、訪ねる。「イヴァン。ジェミニの問いかけだ。お前なら…どうした?獣を…殺したか?」




イヴァン:「ああ……倒したさ。」

GM:「そうか。そうだな」

イヴァン:「……後悔しているのか?」

GM:「剣を抜いたときに、もう……決めていたんだ。」

イヴァン:「そうだ。それでいい。きっと感謝している。」

GM:「そうかな?」

イヴァン:「病から救われたのは確かだ。」

GM:「でも感謝しているかはどうだろうな。それこそ……わからない。」


GM:「お前の話も聞かせろ。そうだな…壁の中の話だ。」

イヴァン:「都の宮廷には魔物が住んでいるんだ。」

GM:「倒してしまえばいい。」

イヴァン:「奴らは自分が権力に取り付かれているのを知らない。普通、そんなヤツはどこの国にでもいる。だが都で違うのは、とても権力など握れそうも無い、間抜けや馬鹿共ですら、それに取り付かれることだ。」

GM:「魔境だな。まるで。」

イヴァン:「ああ。あの壁に閉じこもっているのだ。」

GM:「草原も大地も、続いているのに……」

イヴァン:「彼らは――自分の大地はあの壁の内側だ、と言っているのだ。俺に言わせれば、檻を作って自らが入っているようなものだ……」


かつて、草原のむこうまで行きたいといった娘がいた。不意にそのことが頭をよぎる


GM:「壁なんて壊してしまえ。そのほうがいい。」


どちらが先に眠りに落ちたのか。一つの毛布に包まる二人にはいつしか寝息と思われる吐息だけが響いていた。

「なぁに……同じ大地で暮らしているのだ。
振り向かせてやるさ。――絶対」



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