Opening phase 

    

【アドホック・レルム】

新しい国の布告。すなわち独立というものが公布され数日が経過する。辺境の蛮地とされ、搾取されるだけだったこの地では、この独立はおおむね好意的に受け取られていた。

そして数日後、一人の客人が館を訪れた。



イヴァン:俺は家人にも事欠くありさまだからな。「どうぞ、どうぞ。」ろくすっぽ館に仕えるものもいないので、応対も俺がやってしまうという有様だ。

GM:それは酷いね。王宮とは思えない。


その人物、メガネをかけた女史という感じの人物は、この屋敷の貧相さ、家人の足らなさを見て目を丸くする。国王が応対するのも前代未聞だ。


イヴァン:「ああ、スマンな。今、茶でも出そう。そこにかけてくれ」この辺りの文化だと、確か建物は石造りで、簡素で無骨なつくりなんだよな。

GM:そうだね。ケルトとか北欧とかだ。

イヴァン:武器を飾るのは普通なんだけど、盾をズラッと飾っているんだぜ。向こうは。盾の意味合いが大きいからな。


GM:案内されるままに椅子に腰掛ける女史。「王国の布告がありましたのでご挨拶に参りました。スターシャと申します。」

イヴァン:「ああ、この国は長いのか」

GM:「え……と、はい。異国から参られた貴方よりは。私はこの国で生まれですので。」

イヴァン:と、ちょっと待てよ。北方人という感じなのか?


GM:「あ、いえ。私はこの土地の生まれではありません。王国の生まれです。諸国を回っていまして。」と君も彼女の名前は旅の中で何度か耳にしたことがある。名士のような人なんだ。

イヴァン:「訪ねてくれたことは感謝する。歓待せねばならんところなんだが、準備ができていない。生憎持ち合わせが無くてな。」

GM:「いえ、歓待など……。あのぅ王国の名前はアドホックレルム(暫定王国)と聞きました。」

イヴァン:「ああ。」

GM:「お伺いしても宜しいでしょうか。その真意を。」

イヴァン:「というと?」


GM:「あなたは王国の軍勢を打ち破り、この土地に新王国を建国した。これは国民の総意と言ってもよいでしょうし、ここの人々は歓迎しております。独立は国民の悲願です。」

イヴァン:腕を組む、ね。

GM:「ですがあなたはこの王国をあえて暫定王国と名乗られた。これは元々の王国に従属しつつ、行政権と軍事の独立を意味する言葉。これは未だ国王陛下に対して臣従する意があると考えていいのでしょうか。」

イヴァン:スターシャはどうやら王国に対して思い入れが強いらしいな。さっきの生まれは?のくだりでもわかる。「レルムと呼ばれる王国が、キングダム(本国)と争った歴史はいくらでもある。」

GM:「そうですね。」

イヴァン:「独立した経緯を考え見れば、俺たちが争いの運命を持っていることは自明だがな。」


GM:その答えで彼女の中の疑問はさらに深まった用である。「そうだとするのならば、何故暫定王国などと名乗られたのですか?」

イヴァン:「どう思う。」


GM:「わかりません。わかりませんから、あなたの真意を尋ねてみたいんです。」

イヴァン:「そうだな。分析してみるといい。世間の人々は俺のことをどう噂している?」

GM:「噂だと…あなたは勇猛果敢な男であり、戦で名をあげた勇者と聞いています。」

イヴァン:「良いところを上げるならな。言葉で飾るな。構わん。」

GM:「……王都では姫との鞘当に破れた…などというものもおります。これは復讐劇なのだ、と、もてはやす者もおりますれば……」

イヴァン:「そうかもしれんぞ?」

GM:「指輪の話も聞きました。国王の為に尽くした愛国の士……指輪により、無罪を証明した……と。」

イヴァン:「その指輪はもう俺の手には無い」と失った小指に目を向ける、か。

GM:「それも……聞いています。」と彼女もその失った小指に目線を向ける。「……返してしまったと」

イヴァン:「……」


GM:「良いやり方でも、悪いやり方でもあると思います。」そして顔を上げる。「忠誠心も見せましたし、これはお前の責任だ、とも受け取れます。」

イヴァン:「事実その通りかもしれんぞ。両方とも、だ。」

GM:「そうかも……しれません。」

イヴァン:「……」

GM:「私は、あなたが王国と戦う…滅ぼすつもりではないのならば、僻地に追いやられても王国に忠誠を残す人々を招き入れる用意があります。」

イヴァン:「お前は王国に帰りたいと思っているのか?」

GM:「……私は……ただ……自分達の力を役立てたいのです。自分の信じる正しい方向に。」


イヴァン:「ふむ」椅子に寄りかかるか。「いい申し出だ。こちらとしても願ったりだ。だが、国と戦争するなとか、王国はこうあるべきだ、なんて要求は受けられない。決めるのは俺だ。」

GM:「勿論!(即答)……そうです。」

イヴァン:「うむ……」


GM:「人には四つの区分があります。現在も将来も不安があるものは反乱分子になるそうです。イシュカがそうです。」

イヴァン:「イシュカを知っているのか。」

GM:「ええ……現在は満足していても将来は不安な人は保守的になります。現在が不満でも、将来には希望がある人は革命家になります。」

イヴァン:「ほう。俺の区分はどこだ?」

GM:「あなたは現在の状況に一定の満足をしていて、将来にも希望を抱いている。」

イヴァン:「区分は?」

GM:「リベラル(先進)といいます。とても珍しいものだと思います。」

イヴァン:「スターシャ。現状に対する満足や将来に対する希望は人の感じ方次第だ。戦場でドロをすする人生でも満足があり、絶望しかない世界でも希望をもって生きることが出来る。これは感じ方の問題だ。忍耐が必要だ。」

GM:「なるほど」

イヴァン:「忍耐力が試されているように見えるな。王が忍耐強くても国家が忍耐強いかわからんぞ。時に国民は王の意思を無視して戦を暴発させる。」

GM:「それが先ほどの問いの答えですね……。あなたがどのような人で、どうして戦うに至ったか……わかりました。」




イヴァン:「とにかく、俺からの要求は一つだ。俺の命令は絶対だ。臣従するのなら俺の意思に従え。」

GM:「はい。」

イヴァン:「確かに、俺は現在、王国の国王に対して害意は抱いていない。俺の弁解を聞いてくれたあの国王には感謝の念すら抱いている。」

GM:彼女の瞳が見開かれる。「では――」

イヴァン:「感謝も同情もする。……だが、戦うときに躊躇はしない。」

GM:彼女の表情が固くなる。

イヴァン:「感謝と両立できない道があることに……不安を感じている。」と腕を組む。

GM:「……避けられる方法もあるのでは、とお考えなのですね?」

イヴァン:「……可能性だ。」

GM:「私も可能性の話をしているのです。」

イヴァン:「ああ。だが、俺の意向に背く者も多い。」

GM:彼女も当然イシュカのことを思い出す。言いにくそうに逡巡した後告げる。「……イシュカとは手を切りなさい。」

イヴァン:「俺は登用した覚えは無い(笑)」

爆笑!

GM:そうでした(笑)

イヴアン:どうしてこうなったのか…俺が聞きたい(笑)。


GM:スターシャは複雑な表情を作る。「私はイシュカとは面識があります。今の彼女を理解しているつもりです。ですが、私が国王だったら…イシュカを討って、これが私心ではないことを天下に示すべきだと思います。王国はあなたを誤解しています。勿論、反乱を喜ぶ人々を落胆させてしまいますが……それがあなたの本心なのでしょう?」

イヴァン:「イシュカは捕まったが、それは俺を貶めようとしたわけではない。あれが原因で戦は始まったが、あれはただの事件だ。」

GM:「それは……そうですが……」

イヴァン:「イシュカを討つのは、所詮、腹いせにしかならん。」

GM:「でも……それではあなたが……」


イヴァン:「スターシャ。あの事件はただの災難だった。風雨や雷のようなものだ。雷がイシュカの家を打ち、焼いたとして、それが大火となってもイシュカのせいではない。天災に対して民に罪を問うのは王のやるべきことではない。」

GM:「たとえ…悪名を問われても…ですか?」

イヴァン:「そのとおりだ。」

GM:「……」

イヴァン:「そんな時は頑張るときだ。王も民も。」

GM:「そうかも……しれません。」

イヴァン:「イシュカが復讐が実り、戦争が始まったと思っているのなら勘違いだ。あれはただ雷が落ちただけだ。」


GM:驚きとともにやがて息を整える。そして笑顔を見せる。「差し出た口を……お許しください。」

イヴァン:「いいんだ。俺も正直首を跳ねてやりたかった。頭を冷やすに限る。」と少しおどけて答えるか。本心だからな(笑)

GM:あっけに取られた後、スターシャもクスクスと笑う。そして視線を窓の外に投げ打つ。「イシュカ。彼女は元々異民族の出で、普段ならば重用されるはずの無い人物でした。」

イヴァン:「しかし彼女はサラミスの愛人だった。」

GM:「二人は趣味も合い、上手くいっていました。」

イヴァン:「趣味はきかないでおこう。」サラミスもどうも怪しげな趣味があるらしいしな。

GM:「はは。そうですね。」そして再び話しはじめる。「イシュカ。彼女は人のために汚れることで愛情を証明してきたのでしょう。」

イヴァン:「お似合いの二人に見える。」

GM:「自分達の関係が身分を越えたものと信じていたのでしょう。サラミス様も『愛しているのはお前だけ』とでも言葉で飾っておけば彼女は幸せだったのでしょうが……そんなことはしなかったのです。」

イヴァン:過去を清算されたわけだ。「完全な私情だな。」

GM:「ええ。完全な私情です。」

イヴァン:「驚くな。それで王国を滅亡させようとやっきになっているのか。狂気といってもいい。」

GM:「元々感情的な部族なのです。きっとそうなんでしょう。メイジ…魔女とは誇張ではありません。」

イヴァン:「魔女か…情念の強さでは理解できるがイメージは程遠いな。」


その会談は僅かな間であったが、有意義なものであった。スターシャを見送るイヴァンは不意にいつのまにかに雪がやんでいることを、ようやく気がついた。


イヴァン:「さて、役職は何がいい?大臣か?」

GM:「え!大臣ですか?」

イヴァン:「なんでも選び放題だぞ、何せ、内政官0だ。肩書きなど呼び名にすぎん。」

GM:「フフ。まずは隗より始めよ。という言葉がありますね。」


春秋戦国時代、燕の昭王は郭隗に人を集める方法を聞いたという。
彼は『凡庸な自分を重用すれば、それより才のある人間は、より重用されるだろう、と集まってくる』と説いた。


イヴァン:「しかし、もてなそうとしてもここには何も無いぞ?期待してこられても報いるだけのものがない。」

GM:「ご心配なく。それは私が用意しましょう。これからはお任せください。ところでカウントは何にお使いに?」

イヴァン:「全部俺の装備と騎士団だ。」

爆笑!

GM:「うぇええ……と(苦笑)確かにこれがこの国を守っているのですけれど、せめて食料ぐらいはなんとかしないと……」

イヴァン:「そこを改めるつもりはない。異論は認めん(笑)今後そこは対策を練る。」

GM:「私はアルケミストです。お役に立てるかと。」

イヴァン:「助かる。」(意訳:また装備が一団と充実するな。)

爆笑!

GM:「私はまずはこの国にいる有能な人々を集め、名士の賛同を得て参ります。」

イヴァン:「よろしく頼む。」と一礼、ああそれと……「スターシャ。これからも、話を聞いてはもらえないか」

GM:「え」

イヴァン:「お前と話をすると俺も煮だった頭が落ち着く。色々と……自分の気持ちを纏めていきたい。」

GM:「はい。喜んで。」

イヴァン:「そして国づくりをするにいたって色々と協力してもらいたい。」

GM:「私達のような人間は『お前が必要だ』と、そう言って欲しいのです。」

イヴァン:「いい直そうか。お前が必要だ。これでどうだ?」

GM:「私にできることがあるのならば、なんなりと。」


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